そもそも、メサイアなんて言っても、「救世主のことだよね？」って知っていれば御の字。それなりにクラシックを聴く人でさえ、「『オラトリオ』なんだから『宗教音楽』だね」とか「あ、『ハレルヤ』が入っているやつ」という程度の人が大半なのではないだろうか？ま、学校の音楽でもその程度しか教えないし。かく言う私「くま」も、合唱参加当初はそのレベルでした。ま、歌う人がそれなんだから、聴く側は知らなくても無論恥ずかしくもなんともない。でもね、なーんも知らないで聴くと３時間近くの長丁場、寝ちゃいますよ。(-_-)ｚｚｚ
ってなわけで、このページをプリントアウトして、読みながら聴いてくれれば飽きずに楽しめるって趣向です。
あ、とりあえず、このページは２００１年４月１日に行われたICU献学50周年記念コンサートをターゲットに書いてあります（文中「今回」とあるのは、このコンサートを指します）。コンサートはおかげさまで無事、大成功で終了いたしました。が、一般的な知識も載せてますので、どうぞ、今後もこの「くま的解説」を読んで俄かメサイア通になってみてください。（なお、文中表記は４／１が未来形になっています。これは、コンサートを前にして作ったページですので、その雰囲気を残すためそのままにしておきます。これから初めてメサイアを楽しむ方も、その感じで読んでみてください。）
そうそう、このページをプリントして今コンサート会場で読んでいる方、どうぞ、紙のパラパラいう音には、ご注意を。あと、ケータイやピッチの着信音、切ってあります（笑）？ もう一度ご確認を。
まずはちょっとだけお堅いハナシをば。ま、よく「プログラムの解説」にあるよーなハナシですけど。
そもそも、ヘンデルって何国人よ？ ．．．ドイツ人？ イギリス人？ 実はドイツ生まれのドイツ人でしたが、４２歳の時にイギリスに帰化しています。英語を母国語としている人じゃないんです。
そこで 「げ？ じゃあドイツ語なの？」 って思ったかた、ご安心ください。英語です。ただ、はっきり言って、ヘンデルは英語がへたくそです。「どーしてこの音形にこの言葉を載せるかなー！」ってくらい、歌いにくいところが何箇所かあるんです。しかも今回は、原譜にもっとも近い「ベーレンライター原版」を使用します。世の中、歌いやすくするために、いろんな修正版テキストが出回っているのですが、今回はもっともヘンデルが書いたものに近い形でお目にかけます。
で、ヘンデルの母国語がドイツ語なのはわかったけど、メサイアはなんで英語なのかって？ ヘンデルがすでにイギリスにいてイギリスで初演するために書いたからです。１７４１年のことでしたから、すでにイギリスに帰化しています。今から２６０年くらい昔ですね。聖書の有名な詩句を適当に抜き出して、曲をつけて、５０曲近くの一種の組曲風に纏め上げたものです。なんか、のべ２４日程度で全曲書いちゃったらしいです（もっとも、一部には、自分のかつて作ったオペラの曲を使いまわしたりしたみたいですけど）。これをもって「オラトリオ（宗教音楽）」と言っています。ですから、宗教音楽といっても中世の重々しく単調なものとは違い、かなり派手です。
ところで、さっき「英語でも聞き取れるわけねーよ」って心の中でつぶやいた方、大丈夫です。そのためにこのページがあるのです。歌詞と対訳は「歌詞のページ」に載せましたし、繰り返し出てくる言葉は下の方でちゃんと「キーワード解説」もしちゃいますからね。それだけ聞き取れれば大丈夫！
最後に薀蓄（うんちく）をもう1つ。よく「メサイアは救世主（キリスト）の一生を描いた音楽である」などと言われますが、ウソです。キリストの生涯の３つの大きな出来事しか歌ってません。すなわち「救世主生誕の預言と、降誕」「受難と贖罪そして復活」「永遠の生命」です。これがそれぞれ第1部、第2部、第3部にあたります。日本だって、みんなが知っている、例えば「忠臣蔵」なんかは「松の廊下」「切腹」「討ち入り」しかやらなかったりするじゃないですか？西洋人にとって、キリストの生涯なんてのは、だれでも知っている物語で、それを逐一歌っていくのはかったるいんでしょうね。
なお、メサイアの「歌詞（テキスト）」は、全て聖書の「詩篇」「書簡」あるいは「黙示録」から取られてます。西洋人はそれらの有名な詩句を聞くだけで、なんのシーンかわかっちゃうみたいですね。「おそかりし由良介」ってなもんです。ですから、歌詞の中に「キリスト様がお生まれになったー！」だの「ジーサスクライストが十字架にかけられたー！！」なんていうようなものはありません。「ひとりのみどり子がわたしたちに与えられた」とか「なんという悲しみ！」とか「見よ、子羊を」などという詩的な言葉で婉曲的に語られています。そんなわけで、今回も歌詞と対訳は会場で配られますけど、あまりに婉曲すぎてどういう物語なのかチンプンカンプンということになりかねません。
ま、ですから、歌詞そのものは、「歌詞のページ」に訳詞とともに掲載しましたが、それとともに、このページで各曲の解説も読みながら聴いてくださいね。ではいよいよ、曲のはじまり、はじまり。
このページで書いてある歌詞のうち色が変わっている部分は、クリックすると歌詞のページの該当部分にジャンプします。（その時はブラウザの「戻る」ボタンで戻ってきてください）。また、歌詞のページで♪マークをクリックすると、そこの音楽が聴けます。それもいっしょに楽しんでください。
まずは、第１部です。いきなり、序曲が重々しくはじまりますねー。これ聴いただけで、クラシック慣れしてないといやになっちゃいません？ ま、キリストの生涯ですから、やはり受難を暗示してないとね、ってことで軽々しくはできないのですが、でも直ぐ終わりますからしばしオケの響きに耳を傾けてください。重々しい中に、キリストの生涯の苦悩と栄光が見えてきませんか？次に、途中でテンポが変わると、今度はバロック好きなら狂喜しそうな、美しい旋律のおっかけっこの曲調になります。全曲の中で、歌の無い曲はこの曲と１２番だけです。なお、楽曲の他に、メサイアには歌のある曲としては３種類出てきます。ソロ（独唱）が、セリフを語るように歌う「レチタティーボ」、ソロが歌い上げる「アリア」そして、くまやあるちゃん達が歌う「合唱」です。
最初の歌（２番）はテノールです。今回は辻さんですね。彼の重量感のあるボディから出る、天に突き当たるような高音を楽しんでください。最初は「レチタティーボ」。鋭い高音に入るまえに「慰めよ（Confort)」というやわらかな言葉でメサイアの歌詞は始まります。曲もゆったりとしてきれいなメロディーです。「救世主が生まれる」という預言のためにまず「（戦争にあった）エルサレム（英語なので「ジェルザレム」と発音しています）の国そのものが赦され、その民たちが慰められるのだ」ということです。辻さんは、ここをあの体格らしい、懐の深さと柔らかさで歌います。
つづいて、３番、引き続きテノールのソロですが、曲調ががらりと変わります。「全ての谷は身を起こし、全ての山は低くなれ」とむちゃくちゃなことをいいます。救世主が現われるのだから、荒地は道になれ、っつーことです。ま、自然界すら主の栄光の前には言うことを聞いちゃうってことですねー。スケールでかすぎ。このスケールの大きさも辻さんにお似合いですね。なお、歌いだしは「エブリバディー」ではなくて「エブリバリー（全ての谷）」ですから、お聴き違えのないように（笑）。
ま、くまが合唱のパートですからってことでもないんですが、ここで４番、最初の合唱、よーく聴いてくださいね。なにしろ、いままでのソロとちがって、合唱は今回は素人集団。出だしがちゃんと出られるかなー。ま、ほほえましくお聴きください。なお、今回の合唱の編成は左からソプラノ約４０名、テノール約１５名、バス約１５名、アルト約４０名です。通常は左側に女声で右側に男声が並びますが、今回は男声を真中にして女声ではさむ構成になってます。なぜかって？
最初の練習のときにそう並んじゃったからなんですね。でも、両側からの女性の素敵な声の響きと、中心から力強く響く男性の声という構成も悪くないんじゃないですか？
最初の出は、あるちゃんのいるアルトからです。さっきのテノールのアリアで「地形まで動かしちゃえ」ってむちゃを言ったのを受けて「そして主の栄光を生きとし生けるものは皆そろって見るのだ」とゆーわけです。
さらに、地形にまで主の影響力を見せるという預言を歌うのが５番。バスの力強い声で「ゆり動かしてやるぞ〜〜〜（Sha----------ke）」と歌います。今回は、バスよりもさらに張りのあるバリトンの折田さんが美声を聞かせてくれます。最初に折田さんの声を聴くと思わず震えが走るくらいの美しい響きです。お楽しみに。なお、上記の「シェーーーーィク！」の部分はメリスマという歌い方で、細かい音の動きが連続して来て大変な技術を要します。合唱曲にもメリスマがあって、これがむずかしいんだ！
そろうと．．．いいんだけどなぁ。
そして、６番のアリアから７番の合唱へとレビの子らを清める話しが歌われます。メリスマがんばれー＞合唱！
女声のソロの最初の出番は、アルトのレチタティーボです。今回は近藤さんの非常に熟成された深く優しい声でお楽しみいただきます。「見よ！ 乙女が身ごもって．．」というセリフに合った、美しくゆったりとした語りです。
続いて、「吉報をシオンに伝えるものよ、山に登れ！」というこれまた美しいメロディでマリアの受胎の知らせがエルサレムにもたらされる喜びをアルトが美しいメロディに乗って謳いあげます。この曲は、そのまま合唱へと引き継がれ、力強くも美しいコーラスとなって、人々の間を吉報が伝わっていきます。この８番は全曲中でもくまが大好きな１曲です。
美しい合唱が終わると、一転してバスの沈んだレチタティーボから、暗〜〜いアリアに入っていきます。主の栄光が現われるまえの「闇が地上を覆い（９番）」「闇の中を歩む民・死の陰の地に住む者（１０番）」たちの状態を歌っているのです。この暗い暗いアリアが、その次の大いなる光へとつながっていくのです。（このアリアの中でも、「大いなる光(The great light!)」の部分だけは、明るく力強い調子なの、わかりますでしょうか。）ま、全体的に暗いアリアで、あまりの暗さにめげないように覚悟して聴いてくださいね。
さあ、「ひとりのみどり子が私達のもとにつかわされ」ました。クリスマス物語の中核、キリストの誕生を喜ぶ歌です。前の暗いアリアから一転して明るい合唱になります。この見事な対比をお楽しみください。
ここで、１つ薀蓄。曲中、「権威が彼の肩に載る（And the government shall
be upon His shoulder）」というフレーズがあります。明るい曲ですが、ここのフレーズだけは「タターン、タターン、タターン．．．」という足を引きずるような上昇音階です。それもそのはず。ここは、「受難のリズム」という、ゴルゴダの丘に十字架を背負って登っていくことを暗示している部分なのです。キリストの受難は、生まれながらにして決まっていたのです。
キリストが生まれたところで、歌は一休みします。
メサイア全曲中、序曲を除いて唯一の楽曲です。「田園曲」というだけあって、非常に美しくゆったりとしたメロディーの曲です。次の「羊飼いたちが野宿をしながら．．．」につながっていきます。目をつぶると田園のおだやかな風景とそこで、野宿をしながら羊を追う羊飼いがが浮かんできませんか？
（寝ちゃダメよ！）
お待たせしました！ このレチタティーボを含む５曲のうち４曲は、初めての出番のソプラノのソロです。今回は佐竹さんの、どこまでも澄み切った、この上も無く美しく、かつとても可愛らしい歌声でお届けします。佐竹さんが「Ａｎｇｅｌ」というと本当に天使がそこにいるかのような気持ちになります。佐竹さんの歌声は、日本にもこんなに美しい声の人がいたのかというくらい。その至高の美声が初めて謳う内容は、降誕を天使が羊飼いたちに知らせに来る、クリスマス物語中最もポピュラーなシーンです。短い語りかけるようなレチタティーボが４曲、間にチェンバロの「チャララン！」という音で区切られて連続します。「羊飼いたちが野宿をしていた」「天使が近づき、主の栄光が周りを照らした」「天使は言った『恐れるな、私はおおいなる喜びを告げる。今宵ダビデの町で、主イエスキリストが生まれた』」と、だんだんともりあがっていきます。私は、この連続のソプラノの部分が、可愛らしくて大好きです。
４曲目には、「すると突然、天の大軍が現われ、神を賛美して言った！」という、有名なフレーズが佐竹さんの澄み切ってかつすばらしい声量で歌われ、そのまま５曲目の「いと高きところに神の栄光（Glory to God in
the higest）、地には平和（and peace on earth）」 という合唱につながります。クリスマス物語のクライマックスを合唱が高らかに謳いあげます。神を賛美するフレーズと、「地に平和を」を歌う男声の高低の対比を楽しみつつ、やがて天使が遠くに飛び去って行く様が、可愛らしい後奏で奏でられていきます。この一連の流れは第１部の聴き所です。お楽しみください。
主の降誕の知らせは、やがてシオン（エルサレム）の人々に伝わっていきます。人々は喜び踊ります。この喜びもソプラノの独唱によって歌われます。引き続き佐竹さんの美しい歌声による喜びの歌をどうぞ。
次に、レチタティーボにより「盲いた目が開き、聞こえない耳が開く」という奇跡が語られ、続いて、メサイアでは珍しいDUET（二重唱）に入っていきます。「重荷を負うものは、だれでも主のもとに来なさい。主はあなたがたを休ませてくださるであろう」「主は柔和な方だから、主のくびきを負うて主に学びなさい」．．．アルトの近藤さんの柔和な深みのある声から、佐竹さんの澄んだ高音へのつなぎを楽しんでください。
第１部最後の曲は、前の歌詞をうけ「主のくびきは負いやすく、主の荷は軽い」という希望のある合唱曲です。軽さを表す、軽く弾むようなメリスマ．．．．合唱団は上手く歌えるといいなぁ。
ここで、休憩に入ります。次からいよいよ、暗い受難に入っていくので英気を養っておきましょう（笑）
冒頭にも書きましたが、メサイアはキリストの一生を順を描いて書き上げているわけではないので、２部に入るといきなり受難がはじまります。
第２部は「見よ、神の子羊なり（Be hold the Lamb of God）」という暗い合唱ではじまります。その子羊であるキリストは、いまや「人々に軽蔑され、見捨てられ、多くの痛みを背負って．．．（He
was despised and rejected; a man of sorrows）」います。本当は世の罪を取り除く子羊のはずなのに．．．．
なお、ここから後、「犠牲となる神の子羊（Lamb）＝キリスト」と「迷える羊（sheep）＝我々地上の人間」 が何度も出てきます。これを混同しないように聞いてください。（くまも最初混同してて、「なんのことやら？？」状態でした（笑））
さあ、合唱の一番大変な場所です。３曲連続して、違うタイプの曲を歌っていきます。
まず１曲目は、今回「メサイア中もっとも激しい曲」と位置付けられている「Surely」です。「彼が担ったのは私達の病であり、彼が負ったのは私達の痛みであったのに．．．」というものすごく大きな哀しみを痛烈に合唱が歌います。強烈な悲嘆を私達が表現しえるかどうか、聞いてみてください。なお、曲の最初は「Surely（確かに）」でまちがっても「勝利！勝利！」と叫んでいるわけではないので．．．．
続いて２曲目「彼の受けた傷によって、我々は癒された」という、人々の後悔をうたう歌。この曲の出だしは有名な「十字架の音形」になっています。出だしの「and
with His stripes」は横に比較的平らな「and
with」２音のあと、高音から一気に貫くように落ちる「His
stripes」２音で十字架を形作っています。いやがおうにも暗い歌でなおかつ十字架を暗示するというからくりです。「stripes（傷）」とは、むろん鞭打ちのあとの縞の傷のことです。縞模様の囚人服があったはずないですからね。
なお、この曲、（聴いている方には関係ありませんが）実は変わった表記法をとっているのです。通常４分音符で書くリズムを２分音符で書いてあり、その代わり倍以上の速度で演奏するというものです。なんか楽譜は白い丸が多いのに早い曲なので、最初に歌うときは面食らいます。
３連続最後の曲は通称「ひつじさん」。「私達は皆、羊のように惑い．．．（All we like
sheep, have gone astray;）」と歌います。曲調は、一転して明るく、羊のように惑う人々の馬鹿ばかしさを表現しています。あまりの明るさに楽しげに思えるほどですが、しかし最後に「その我々の罪を主は彼に負わせた（and
the Lord hath laid on Him the iniquity of
us all）」と重々しく結びます。ここは私達バスの合唱の聴かせどころなんです。
なお、この最後の曲を私達くまのま〜る夫婦は「羊好き(We
like sheep)」と言っていますが、無論誤訳です（＾＾；
引き続き、人々は彼をあざけりつづけます。「彼を見る人は皆、彼を嘲笑し、唇を突き出しつつ言う．．（All
thay that see Him...Saying!）」とテノールがレチタティーボで激しく語るとすぐ、人々のセリフを合唱が続けます「彼は、神が彼を救ってくれると信じていた。神が彼に心をかけているのなら、神が彼を救い出せばいいのだ（He
trusted in God ...）」。人々は「彼」を嘲笑しつづけます。
この曲でやたら出てくる「彼を（Him）」の「ム」って発音がむずかしいんですよね。「貧」って言っているわけじゃないんですよー（＾＾；
ここで、とうとうキリストは十字架にかけられます。しかしメサイアには「十字架」や「処刑」という言葉は出てきません。せいぜい２２番の十字架の音形で暗示されるだけです。が、しかし、２６番で「あざけりに彼の心は打ちひしがれ、彼を慰める者はだれもいなかった」、２７番で「目をとどめ、しかして見よ。これほどの哀しみがあったであろうか」、２８番の「彼は、彼の民の背きのゆえ命ある者の地から断たれたのだ」．．．とキリストが処刑されて命を落としたことが歌われます。
ここの３曲は、非常に大きな悲しみを静かな美しいメロディーでテノールが歌います。まるで、近年のミュージカルにもありそうなきれいな旋律で、辻さんの豊かな体から出る美声に期待するところです。
引き続きテノールが、「しかしあなたは彼の魂を陰府（よみ）に渡すことがなかった」と、まず神がそのひとり子を見捨てなかったことをアリアで謳いあげます。ここから曲調が少しかわります。
そしてひとたび冥府に落ちたキリストの魂が復活するための城門を開ける合唱が力強く歌われます。「城門よ頭を上げよ。栄光に輝く王がこられる（Lift
up your heads．．．）」そして、男声と女声のかけあいによって「栄光に輝く王とは誰ぞ？」「そは強く雄々しい主、万軍の王なり」と歌われます。いままでの暗さを一気に吹き飛ばす明るさと力強さのある合唱曲です。なお、メサイア全曲中この曲だけが、女声３部合唱（ソプラノ・メゾソプラノ・アルト）に分かれています。
（この後３１番〜３３番、３４番、３５番は今回の演奏では省略され、次は３４ａ番が歌われます）
キリストが復活し、その「平和の福音を知らせる者の足のなんと美しいことか」というちょっと哀愁を帯びた美しいメロディーがソプラノの独唱で歌われます。佐竹さんの声で「How beautiful」と言われると、この世のものとは思えない美しさを感じ、思わずため息がでてしまうでしょう。静かな澄んだ美しいメロディーをお楽しみください。
キリストの復活のニュースはエルサレムから各国へと伝わっていきます。ところが、各国の王たち（指導者たち）は、そんな新興宗教（当時）の台頭を良しとせず、キリストの復活や神の栄光を伝えるキリストの弟子たちを迫害しようとしました。そうした地上の王たちの反抗がバスのアリアで謳われます。「何ゆえ、国々は狂おしく騒ぎたち．．．（Why
do the nation）」。これは、バスのアリアの中では名曲中の名曲。折田さんがもっとも得意とされる曲でもあります。この曲のかっこよさは並大抵ではありません。特に途中の「against
the Lord（主にさからい．．．）」からの部分の謳いあげは折田さんのバリトンがもっとも映える部分です。存分にお楽しみいただきたいところです。
ひきつづいて、地上の王たちが「我らは枷（かせ）を打ち壊して．．．（Let us
break．．．）」と勝手なことをあっちこっちで言い合う状態を歌う難曲が、３７番の合唱です。地上の王たちの勝手な言い分が（うまくいけば）４声のあちこちからバラバラにきこえてくるはずです。本来は３拍子なのですが、お構いなしに２拍目から入ったり、早いメリスマがあったり、各パートそろうところはほとんどありません。それでいながら全体で一つのきれいな合唱曲にまとまっているところがヘンデルの天才なのでしょう。ああ、うまく歌えるといいなぁ。
次のテノール（このあたりテノールの聞かせどころが続くなぁ）のレチタティーボは、これら地上の王たちの様子を見てあざ笑うことを語ります。「天に住まう方々は彼らを蔑して笑い給わん（He that dwelleth in heaven...）」。そして３８番のアリアで「汝鉄の槌をもて、彼らをくだかん（thou shalt break them with a rod of iron）」というわけです。かくして、地上の王たちの反乱も主の力の前にはひとたまりもなくうちくだかれてしまうのでした。
さて、ハレルヤです。おそらく、メサイアを一度も聞いたことがない人でも、ハレルヤだけは耳にしたことがあるでしょう。また、これなら歌ったことがある、という方も多いのではないでしょうか。あまりにも有名なコーラスで、ヘンデルの名を不動のものにしています。この曲は、ロンドン初演（１７４３年）において、感激した国王ジョージ２世が思わず立ちあがって聴いたことから、以後聴衆は立ち上がって聴く習慣になったというくらいの名曲です。そうです、この曲は特に断りがない限り、「立って聴くのがエチケット」です。今回は残念ながら「座って聞いてください」ということになっています（わざわざプログラムに印刷してあります）が、他の演奏会の場合は前奏がはじまったら、堂々と立ち上がりましょう。演奏者とそしてヘンデルへの限りない賛美をしながら。
そうそう、歌われている内容ですが、鉄槌によって主の栄光が再び地上を照らしたあと、主の栄光の国の訪れを賛美して歌う内容です。「ハレルヤ！」とは喜びの声であり、「全能なる我らの神である主が王となった！」「王の中の王！主の中の主」と賛美しています。テキストはヨハネの黙示録からです。やはり、盛り上がる曲には黙示録はよく似合います。ここで、今回はベーレンライター原版なので、普段皆さんが聞きなれているものと歌詞がちがいます。一番盛り上がるところの「King
of Kings」のあと後世のテキストだと、「Lord
of Lords」と続くのですが、１箇所だけ「and
He shall reign」となっています。ヘンデルの原典そのままの歌詞ですので、是非聞き取ってみてください。
この、最高の盛り上がりを見せたところで、第２部は終わります。もし感激されたら（してほしいなぁ）惜しみない拍手をいただければ幸いです。（今回の演奏会では、ここには休憩が入りません）
神を賛美した後、第３部の最初の曲は、実に田園的な出だしではじまります。キリスト教信仰の根幹をなす「復活」への信仰。これは「来るべき世には永遠（とこしえ）の生命をもたらす」というおおいなる希望をもたらしてくれます。その美しく高邁な信仰をソプラノのアリアで謳いあげます。「我は知る。我を購い給う主は、ついには地に立たんことを．．．」 佐竹さんがこれを歌うのを聴くと、自然に涙があふれてくるほどでしょう。美しく、澄んで、そしてすばらしい声量の歌声が会場中に響いていくと思います。ソプラノのソロの最後の聴かせどころです。たっぷり浸ってください。
続く４１番は、「死が一人の人によってもたらされたのだから、死者の復活もまた一人の人によってもたらされるのだ」という信仰を合唱が歌います。「すなわち、アダムによってすべての人が死ぬことになったように、キリストによってすべての人が永遠の生命を受けることになる」というものです。死を歌う静かな部分と、生命を歌う力強い部分の対比を楽しんでください。これも、合唱のタイミングをあわせるのが難しい、隠れた難曲です。
バスが、実にやさしく語りかけます。「見よ。我は汝らに神秘を告げよう．．．（Be
hold, I tell you a mystery...）」。 このバスは今までの荒々しく力強いバスとは一転して、慈父のようなやさしさに満ち溢れています。折田さんの美声がもっとも美しく響くときです。曲調も、限りなく優しく告げていきます「最後のラッパの鳴らんとき、たちまち、瞬く間にすべて我らは変容さるべし．．．（but
we shall be changed. In a moment, int he
twinkling of an eye at the last trumpet）」
そして、トランペットが高らかに吹き鳴らされます。「最後のラッパが鳴るとき、死者は朽ちざるものへと甦り．．．（...the
trumpet shall sound, and the dead shall be
raised incorruptible...）」 トランペットの独奏は、ICU教会で収録したCDも出している戸部さんです。実に華やかで高らかな音を出してくれます。そのトランペットに合わせて折田さんがまた、高らかに永遠の生命への甦りを謳いあげます。折田さんのバリトンの張りのある声と戸部さんの明るいトランペットの共演をお楽しみください。（今回の演奏では４４番〜４６番は省略されます）
メサイア全曲の最後は、「屠られた子羊こそは」で始まる有名なアーメンコーラスです。「屠られてその血によって我々を神に購ってくださった子羊こそ、力、富、知恵、威力、誉れ、栄光、賛美を受けるにふさわしい方である」と神の子羊、キリストを賛美して歌います。「力、富．．．（to
receive power, and reches...）」の部分は非常にカッコイイ合唱です。乗りにのった最高の上昇音階をお聞かせします（できるといいなぁ）。それにしても、こういうカッコイイ歌詞のテキストは、ヨハネの黙示録なんですね。メサイアではハレルヤとこの曲という最高の盛り上がりの２曲のテキストが黙示録から取られています。やりますね、ヘンデル。
その後の「Blessing．．．」からの部分は、男性合唱の聞かせどころ。今回の配列では、ステージ中央からまっすぐに皆様にお届けする男声のユニゾンです。楽しんでください。そして、曲の最後。私たちバスの「アーメン」から始まる詠唱は、独唱者も交えて（予定）全員での力強い合唱となっていき、メサイア全曲の幕を閉じます。
出演者の先生方は、いずれの方もくまから見れば「地上で騒ぐおろかな人」と「天におわす主」くらいの隔たりがあり、とても恐れ多くて解説などできるもんじゃありません。でもいっしょにステージ（の後ろ）に立たせてもらって、本当に大好きになってしまいましたので、ここでも「くま的解説」を．．．．（なお、各先生のまじめなプロフィールは、プログラムをご覧になってください。敬称は略させていただきました）
長谷川朝雄（指揮）
ICUの1期生という大先輩。外国でもあちこちで活躍されたらしいが、くまたちにとっては、優しくしかしメサイアの真髄をたたきこんでくださった偉大なる指揮者。普段の練習の時もよくおどけて我々団員を笑わせてリラックスさせてくれる。が、一度指揮棒を振り出すと、魔法のように緊張感が走り、我々素人がまとまっていく。彼の指揮さえ見ていれば、どんな集団でもまとまってしまうのではないか、と思えてくるくらい．．．．
佐竹由美（ソプラノ）
一度、その声を聴いたら忘れられない美声。日本人でこんな声が出せるひとがいるのか、と思った。天上の澄み切った美声とはこのことだろうか。また、美しいのみならず可愛らしい上に、実にすばらしい声量の持ち主で歌唱力も大変に評価されている。が、そんなことより、聴いているうちに自然に涙があふれてくるほどの美声というのは、今まで聞いたことがなかった。あまりの美しい声に感激し、初めての練習の後でそのことを言いにいったら、普段はちょっと小柄で気さくな方で、地声は普通の声だったのがかえって印象深い。そのとき、なぜか胡麻せんべいをいただいてしまった。
なお、お名前は「由美」と書いて「なおみ」さんとお読みする。今回のテノールの辻さんとご夫婦でもある。佐竹さんご自身のホームページはこちら。（高松交響楽団Ｏｂ奏者でお兄様の佐竹一郎氏の開設しているＨＰ）
近藤恭子（アルト）
ICUの４期生というこれまた大先輩。深みのあるやさしい声の持ち主。その優しい声で「彼は軽蔑され、見捨てられた」と歌うところは、曲が「長調」な美しくゆったりした曲だけに、ひときわ裏切られたキリストの深い哀しみが伝わってくる。これを伝えられるのは、やはり近藤さんの声のおかげ。また、優しく深い声でありながら、必要なときにはピーンと響く声も。彼女が歌う８番はとても美しい。特にソロパートから合唱につながる直前の上昇音階のカデンツァはとてもきれいで一つの聴き所。
辻秀幸（テノール）
バスの折田さんよりボリュームのある体から、天に突き当たるような高声が響いてくる。テノールは特にソロが多く、まず、最初のソロはテノールから始まる。ここで、聴衆の雰囲気を一気につかんでしまうのは彼の天にまで届く高さをもちながら、しかも懐の深い声の役目。また、第２部の中でキリストの絶望と死、そして復活への予兆を歌うあたりも辻さんの聴き所。
ソプラノの佐竹さんのご主人。やはり、気さくにお話をしてくださり、なんかステキなご夫婦だなーとなんかあこがれてしまった。
なお、直近では6/22に横浜みなとみらいホールでご夫婦でのコンサートを予定されている。このページを読んで興味をもった方は、チケットぴあのページで、アーティスト名「ツジヒデユキ」あるいは「サタケナオミ」と入力してみるとチケット情報がわかる。
折田真樹（バリトン・合唱指導）
この方はバリトンとしての美声の持ち主。メサイアのバスパートの荒々しい５番や力強い４３番、そして限りなく優しい４２番とメサイアの名曲中の名曲（とは折田さんご自身の言）のあまりにもかっこいい３６番とすべてを歌い分けてくれる。本当のバリトンの美声を目の当たりにして、おそらく震えがくるほどだろう。だが、くまにとては、何よりも折田さんは我々の合唱指導を９ヶ月にわたってつとめてくださった「先生」でもある。そもそも「合唱の発声法」自体を一から教えてくださり、くまがなんとか合唱というものができるようになったのもすべて折田さんのおかげだ。なお奥様の折田いずみさんはアルトの合唱のメンバーとして参加している。
山東玲子（チェンバロ）
チェンバロは、オーケストラの音に混ざってしまうとあまり目立たない地味な存在かもしれない。しかし、要所要所で「チャララン！」と鳴ったりするし、実は良く聴いているとほぼ全部の曲で「チャン、チャン」と奏でられつづけている。やはりバロックらしさを出す上で最高の楽器。なお、山東さんは、合唱団バスパートで ICU
1期卒の、渡辺さんのお嬢さん。
戸部豊（ソロトランペット）
ハレルヤコーラスや最後のラッパなどで、トランペットはものすごく重要な役。くまはたまたまICU教会で録音された戸部さんのCDを以前から持っていてファンだったトランペッター。今回初めて生でその音を聞いて、その明るい音色にあらためて惚れ直した。
メサイアには、繰り返し出てくる言葉がたくさんあります。その中でも特に重要な言葉をとりあげました。（これって、訳詩を見てもわからないんですよね。）これらをあらかじめ頭に入れてから聴くと、「あー○○について話しているから、こんなに重い（明るい）曲なんだなー」なんて納得できたりします。
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